*帰ろう。[後編]

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「アウリエル!!!!!!!!!!!!!!!!」


ふと、金属音と共にそんな声が響いた。
痛みも悲鳴も、いつまで経っても来ない。
老人がおそるおそる目を開けると……

「―――おお、」

彼の剣を同じ剣で押しとどめ、
踏ん張る人物。
止めてくれただけでもありがたいが、
老人が安堵と感嘆の声を漏らしたのは
それだけではない。
その人物には天使の羽が生えていたのだ。

「……ジブリール」

彼が“天使”の名前を呼ぶ。
老人は、はるか昔に聞いた話を思い出した。

『この世には七人の偉大な天使がいる。それぞれ…なんと言ったか。ミハイル、ラビエル、ジブリール、アウリエル、ジョフィール、ザドキエル…ラジエル。それらがこの世界を神と共に見守ってくださるのだよ』

かつて父親から聞いた神話の話。そして彼は今、天使を
「ジブリール」と呼んだ。
…それと同時に、天使は先程「アウリエル」と呼んだ。
それを理解すると同時に、老人は目を伏せた。

「(――あぁ、神よ。ついに審判を下されたのですね。)」

罪に溺れたこの街は、きっと神の怒りにとうとう触れてしまったのだ。
だから天使を遣わし、住民達を殺した。
そういう、ことだったのか。

「……おい、貴様」
「えっ」
「名前は?」
「…ロト、です」

ジブリールから問いかけられた老人――ロトは、そう答える。

「悪いが有事の際だ、天使らしく敬語で伝える暇はないぜ。……いいか、俺様がコイツを止めてる間に逃げろ。一目散に。決して振り返るな、立ち止まるな。いいな?」
「は、はい…ですが」

先程まで「死にたくない」。そう思っていたロトだったが、
これが神の裁きならば、住民である自分も受けるべきだ。
そう思い、戸惑っていた。

「貴様はこの街唯一の常識者だ。突然訪ねて来た旅人が被害にあわぬよう家に招き入れ、襲われた時旅人を守るため、自らの娘を苦渋の決断で差し出すと言う行動に出た。明らかに、ここの者達とは違う。貴様らなら逃げたとて、神もお許しになるだろう」

さぁ行け!という言葉と共に、ロトは慌てて走り出した
娘二人と妻に連れられ街を出る。腕を引っ張られ
進みつつ、しばらくジブリールを見つめていたが、
やがて前へと向き直った。
――これでもう、振り返ることは出来ない。
振り返ってはならないと、言われたのだから。

「――ねぇジブリール、どいてくれよ」

ふと、アウリエルが言葉を紡ぐ。
ジブリールに対してでさえ、感情がこもっていない。

「なんで逃がしたの?せっかく、最後の人間達だったのに。アイツらは殺さないと。あとはアイツらだけなんだよ」
「……っそんなの、させな………っ!?」


ジブリールがはんば叫ぶように言う途中で、
アウリエルは交えていた剣に力を込め、
ジブリールの剣を弾き飛ばした。
それと同時に、マスケットを腐れ縁へと向ける。

「…どーせ、こうなる運命だったんだ、キミが止めなくても」

あの件が、なくても。
アウリエルは「破滅の天使」として創られたのだから。

「でも…何でだい?」

ジブリールの剣を弾き飛ばしたとき、あまりにも簡単に飛んでいった。
――まるで、最初から力が入っていなかったみたいに。

「……はっ、元からお前に勝てるとは思ってねぇんだぜ」

自身を嘲笑うかのように、ジブリールは苦笑する。
しかし、力はジブリールの方が上のハズだ。

「俺様は優しいからな。どうせ止めをさす瞬間に躊躇っちまう。…お前は、それを躊躇いもなく出来るだろ?だから俺が剣を弾き飛ばしたとて、お前には“それ”があるし、俺が止めを刺そうとして躊躇った瞬間に撃つ」

力が上だって関係ない。止めを刺すとき、
その時の瞬間が大事なのだ。だから、勝てるとは思っていない。

「元々俺様が今ココに来たのは、アイツらを逃がすためじゃないぜ。俺様が来た時、この街の全滅も覚悟してたよ。」

今まさに撃たれてもおかしくない中、
ジブリールは笑って話を続ける。

「お前、無理しすぎだよ」

その言葉に、アウリエルの体がピクリと動く

「感情なんて殺して、心を閉じてしまえばいいと思って。」

そうして、住民達を殺していく。

「平気を装ってるくせに…泣いてるぜ、お前の心。きっとお前のことだ、気付いてないだろ?自分に。」

恋人を庇って倒れる男、驚いた目で見つめ斬られる子供。
老若男女問わずを斬り伏せて撃っていくとき、
確かに、アウリエルの心はひび割れていった。

―本当は殺したくない、でも命令だから、ごめんね

そう何度も心は叫んで。けれど肝心な本人は気付いていない。
…気付かないように、しているのだ。

「……ハハハ、面白いこと言うね。泣いてたら、天使なんて出来ないだろう?」
「あぁ、そりゃあな。だからお前、閉じたって言いたいんだろ?実際は閉じきれてないくせに」

ジブリールがそう言うと、向けられたマスケットが
ジブリールの額へと押し付けられる。
住民を撃つために発砲したいたマスケットだ、
額に触れた瞬間、額が焼ける音がし、
銃剣であるが故に、その額へと剣が刺さり、
静かに血が流れる。

「……それは、面白くない冗談だね」
「そうか?事実だから面白いと思ったんだがな」

火傷した部分へ流れ落ちた血を気にする様子もなく、
ジブリールはそう話す。

「(…もう、逃げれたか?)」

欲に溺れた街で、唯一理性と常識を兼ね備えた一族。
最後に残っていたのが彼らでよかったと真に思う。
「逃がすためじゃない」と言いはしたけど、
彼が全員を殺してしまわなくて良かった。
命令終えなくて良かった。

「……さぁ、撃てよ。それともそのまま刺すか?両方か?いいぜ、好きなだけ殺ればいい。命令の邪魔をしたんだ、元々生きて帰ろうなんて思ってねーよ」

「天使は不老不死ではないのか」とかつて出会った人間に聞かれた。
実際には天使だって撃たれれば苦しむし、斬られれば死ぬ。
天使を殺して堕天した天使がいるように、
天使に殺され消えた悪魔がいるように。
神でさえも、恋をすれば不死ではなくなる。
結局はこの世に“不老不死”はないのだ。

泣いて泣いて、それでも止めてはならない手。
でも、それは止めねばならない。
腐れ縁が気付かず流す心の涙を止めねば。
これが真の友情なのかどうかはわからないけど、
それでも、ただ、「止めたい」という一心で、
天界から下界へと降りて来たのだ。

「ほら、撃てよ。俺様は動かねぇ。動かない的だぜ?あくびをするより簡単だ。何より押し付けている。……あぁ、このまま額をスパッて斬るか?」

自らマスケットを掴み、ジブリールは問いかける。
本当は死にたくないけれど、腐れ縁の手が汚れていくのを
止められるなら本望だ。その代わり、彼は腐れ縁を殺した
という罪を背負うことになるけれど。
自分は友に重い罪をきせた張本人ということにもなる。
そう考えれば、これで良かったのかと思うけれど。
神の命令を止め、続行不可能にした。
どのみち今ここで殺されずとも、裁きは下るだろう。

「………う」

ふいに、マスケットを構えたままのアウリエルが
一言漏らした。

「撃てるわけが、ないだろう…?!」

その言葉と共に、炎で焼かれ続ける街を背景にして、
マスケットと共に崩れ落ちる。
涙を流す瞳には、感情がこもっていた。

「なんでっ、なんで……ううっ………」
「アウリエル…」





『――なぁ、お前、何でいつもここで泣いてるんだい』
『…ふぇっ?』

いつものように、木陰で泣いていた。
そしたらふいに、そう話しかけられた。

『ほら、そんなに泣きはらして!誰?誰にやられたんだい!言っておくれよ、痛い目にあわせてやるんだぞ!!』
『そ、れはちょっと……』

木陰で座っている自分に合わせるかのように、
声をかけた天使もしゃがんで自分に話しかける。

『悪い奴らに情けはかけちゃダメなんだぞ!っていうか、そういうヤツらは後々天罰が下るってルシファーが…そして!天罰を下すのは天使!ボクは天使だからね!良い人間が悲しんでたら助けるんだぞ!』
『僕、人間じゃなくて天使なんだけど……』

意気揚々、元気に右腕を振り回す天使に、
戸惑いながらも正論をほそぼそと喋る。

『細かいことはいいんだぞ!同類に同類がやられたら同類が返すしかないんだぞ!』
『は、はぁ…ええ……?』
『ささ、ほら!言うんだぞ!』

まくしたてるようにつらつらと流れる言葉に
追いつけず困惑していると、
ふとその天使は眉を下げた。

『もしかして…「言ったら報復するぞ」とか脅されてるのかい?!』
『っえ、いや、それは違いま『大変だ―!それは大変なんだぞー!大事なのに聞けないじゃないかーーー!』お、落ち着いて……!』

わあああ、とあたふたする天使に(せわしない人だな)と
内心苦笑しつつ、涙を拭きながら天使を止める。
すると天使はピタッと止まった。

『―――だ』
『あ、あの…?』

そして何か言葉をこぼすが、まったく聞こえない。
聞き返すように話しかけると、バッとこちらを向いた。
それに驚き、思わず「ヒッ」と情けない声が漏れる。

『そうだ!この手があった!』

そう言うと天使はバッと両手を包み込むようにを掴み、
ズイ、と顔を寄せる。

『ボクはアウリエル!お前は?!』
『ジ、ジブリール…』

名前を聞かれそう答えると、天使―アウリエルは
満足そうにうんうんと頷き、手を離し、
立ち上がった。

『――今日からお前は、ボクの弟なんだぞ!』
『えっ……えええええええ?!?!?』

唐突な言葉に、もちろん驚愕の声が
喉から叫び出る。

『ナイスアイデアだろう?お前がボクの弟になれば誰も手出し出来きないし報復を恐れることもない!思う存分ボクに頼ってくれていいんだぞ☆』
『え、いや、でも、その…』
『なんだい?他に何か困り事があるのかい?』
『いえ、その……それだと、貴方に迷惑がかかるかも、て………』

そういうとアウリエルはキョトンとした顔をした後、
盛大に噴き出した。

『あっははははは!何だいお前、そんなこと悩んでたの?!いいかい、まず迷惑がかかるのを僕が嫌がってたら声もかけないし弟にもしないよ!それにお前はボクの弟だからね、ちょっとぐらい痛くもかゆくもないんだぞ』
『(弟なのは決定事項なんだ…)』

どこまでも自由な彼に半場呆れ、先程までの涙は途切れた。
傷ついていた心も、まるで治ってしまったかのように
「哀しい」という悲鳴をあげないし感じない。
立ち上がった彼はとても大きく見えて、
頼もしいように感じた。

『これからはボクが守ってあげる!さぁ帰るんだぞ弟よーー!』

ここは雲の上。太陽を背にしてアウリエルは手を差し伸べる。

『―――うん、』


“帰ろう”。


その手は確かに、掴まれた。





「……うっ、ふ、ぁ…っ…!」

そんな彼は今、剣もマスケットも落として、
泣き崩れている。
額から段々と流れる血も気にせず、
ジブリールはそんな彼をジッと見つめていた。

「あんなに、大きかったのにな……」

そう呟いた彼の言葉は、街を焼く炎によって掻き消された。





END

しょぅゆ。


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面白かったですよー!(小並感)

テイル
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4000文字行ったんですけど

しょぅゆ。
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